緋山酔恭「B級哲学仙境録」 万物のアルケーとピタゴラス タレスからデモクリトス



B級哲学仙境論


万物のアルケー

ピタゴラス

 




万物のアルケーと
ピタゴラス





古代ギリシアの哲学は

「自然はどんな仕組みで成り立っているのか?」

「万物の根源(アルケー)は何か?」

から出発したとされます


このような哲学を

「自然哲学」といいます




タレス(前624~前546頃)は

万物の根源を「水」だと考え

「全ての存在が水から生成され、そこへと消滅してゆく

世界は水からなり、水に帰る」という説を唱えたそうです



タレス以前は、世界の起源について

神話的な説明がなされていたことから

彼が世界で最初の哲学者とされています



なお、タレスは、琥珀を布ぬのでこすると

静電気が発生し、糸くずなどをすいよせることを発見し

これが、人類初の電気の発見だとされます




タレスの弟子にして後継者の

アナクシマンドロス(前610頃~前547頃)は

万物の根源は「無限なるもの」だと主張し


アナクシマンドロスの弟子の アナクシメネス(前585~前525)は

万物の根源は空気(気息)で「万物は、空気が固まってできた」

と主張したといいます





さらに、数学者でもある ピタゴラス(前570頃~?)は

万象(音楽の音から、惑星の軌道にいたるまで)

が一定の法則に支配されていること

さらにその法則が数式により表せることに気づいたとされます



ピタゴラスは「音の科学」の祖されています


大きな発見は「音程は数の比で表される」ことで

それまで、耳で、音を探して調律していた時代に

弦の長さの比によって、音が奏でられることを発見したそうです



そして「万物の根源は"数"である」と唱え

「数」を崇める宗教教団 ピタゴラス教団を設立しています






次に、ヘラクレイトス(前540頃~前480頃)が登場します


彼は、≪万物は流転している 自然界は絶えず変化している

しかしその背後に変化しないもの「ロゴス」がある


ロゴスの「火」が万物のアルケーであり

水や他の物質は火から生ずる≫ と唱えたとされます




ロゴスとは本来「言葉」を意味するとされていますが

今では、根拠、概念、定義、説明、理由、論証、論理

思想、意味、言語、理性、真理など

様々な概念を意味する言葉として使われています



「ロゴス」(論理)と「パトス」(感情)のように

パトスの対比的な言葉としても使われています




≪イエスは、唯一神のロゴスである≫と語られた場合

ユダヤ教の唯一神 ヤーウェ(エホバ)の

「属性」といったような意味ととらえられます


とくに「属性」のなかでも「受肉」ということになるはずです





ヘラクレイトスのいう「ロゴス」とは

≪根源的な法則・摂理≫といったところでいいかと思います




世界で最初の哲学者とされる

タレスは「万物のアルケー(根源)は水である」


「全ての存在、世界が水から生成され。水に帰る」

と唱えましたが



ヘラクレイトスのいう

「万物のアルケーは火である」というのは


タレスとは異なり

あくまでロゴス(法則・原理)の象徴しての

「火」であると考えられています





彼は、≪万物は流転している 自然界は絶えず変化している

しかしその背後に変化しないもの「ロゴス」がある≫としています



また、ヘラクレイトスは、流転(変化)とともに


「闘争」を万物の根源と見なし

「闘争は万物の父である」と述べています



「昼と夜」「生と死」「神と悪魔」

「愛と憎しみ」「善と悪」これらが争い


左に振れたり右に振れたりしながら変化し、自然の秩序を保っている

と考えたそうです




さらに、彼は「上り坂も下り坂も、1つの同じ坂である」

という言葉を残しているように


「光と闇」「昼と夜」「生と死」「神と悪魔」「愛と憎しみ」「善と悪」

そういったものは同じものが変化したと考えたといいます




つまり、表層的には左右にゆれて変化するが

もともと「一」である という世界の根源的な法則・原理こそが


ヘラクレイトスのいう

「ロゴス」であり「火」なのわけです





タレスは、どのような形にも姿を変えられる

「水」を万物の根源と考えたのに対して


ヘラクレイトスは

火というものは、燃えるということと、消えるということとが

同時におきていることから


闘争を象徴するものとして

「火」という言葉を用いたといいます





なお、彼は「愛と憎しみ」「善と悪」が、もともと一つである

という考えから「愛をもって憎しみを捨てよ」とか

「悪をやめて善をなしなさい」とか語る知識人を

愚か者と批判したそうです







ヘラクレイトスと同時代の

パルメニデス(前500年また前475とも~没年不明)は

「万物は変化しない。永遠不変の存在である」といいます



パルメニデスは

「存在しているものは永遠に存在し

存在していないものは永遠に存在しない」


「有が無になったり、無から有は生じない」

「Aという存在はAであり、A以外のものにはならない」

と主張したといいます




パルメニデスの論説とは


【 「有るもののみあり、有らぬものはあらぬ」

「成る」「滅する」はない


eon(ある)は、不生不滅、全体、一、連続としている



「ある」が「あらぬ(=無)」から生じたと考えることはできない

なぜなら「無」は、語ることも考えることもできない


だからと言って「ある」(A)が、別の「ある」(B)から生じたとすると

「ある」(A)は、無であったことになって、矛盾が生じるむ


よって、「ある」(存在)に先行する「ある」(存在)はありえず

「ある」(存在)の後にくる「ある」(存在)もなく

「ある」(存在)は、過去も未来も持たない、時間を持たない


人が感覚する「生成変化する世界」「時間的な世界」を虚妄であり

ヌースあるいはロゴスといった「理性」によってのみ

「ある」の真を、理解することができる 】


というものです




つまり、一元論です



よく、ヘラクレイトスの考え(流転・変化)と

パルメニデスの考え(永遠・不変)とが対比的に扱われていますが


わたしから言わせると、どちらも一元論です




パルメニデスの「実在」と「現象」(仮象)という考え方が

西洋哲学における「存在論」の基盤として

受け継がれていくことになります



このようなことから彼は

「形而上学上の祖」「存在論の祖」とされています





またパルメニデスは、≪真理≫に迫るときには

「感覚」を頼りにすべきではなく

「理性」によって論理的に考えるべきだと主張したそうです


( 但し、彼のいう「理性」とは宗教でいう「魂」であり

「論理的」とは、(宗教的な)「体験的」ということに他なりません )





それから彼は、気高い哲学者として尊敬を集め

「パルメニデスのような生活」

という言葉が広まったそうです



これに対してヘラクレイトスは、王族の出身で

人間嫌い、山で隠者のような生活をしていたそうで

「闇の哲学者」と呼ばれたそうです






宗教家でも詩人でも政治家でも医者でもあった

エンペドクレス(前493頃~前433頃)は


ヘラクレイトスとパルメニデスの哲学の統合を試みた

と言われています



自然学的詩の「ペリ・フュセオース」

(自然について。断片のみの現存)において


万物は、土(地)、水、火、空気(風)の四元素から成る

四元素は、愛と憎の相反する2つの力によって

結合したり分離したりする


愛は統合、憎は分離させる力で、この2つの力の強弱で

宇宙は4つの期間を永遠にめぐる

と述べているそうです



現代的にいうと

愛とは「引力」で


「憎」とは「斥力」(せきりょく・互いに反発し合う力

互いに遠ざけようとする力)と言えるかもしれません




4つの期間は


第1期は、愛のみが支配し

四元素が完全に融合、宇宙は巨大な球である



第2期は、憎が作用しはじめ球は壊れるが

愛も作用しているので四元素は様々に融合し

宇宙が具体的な形をとる

世界と各生物が誕生する期間である



第3期は、憎のみが支配し、四元素は完全に分離

それぞれで球的集団をつくる



第4期は、愛が作用しはじめ、第2期と同様

世界と各生物が誕生する


としています




なお、エンペドクレスの宗教詩

「カタルモイ」(浄め。断片のみの現存)には


ダイモン(神霊)が、罪を犯して天上界から地上へ転落し

木、魚、鳥、獣、人間などといった様々な存在に転生し


苦を受けつつ3万の季節をすごした後

天上界に戻ることが語られているといいます



それから、エンペドクレスには

死者を復活させたとか


神として崇められたいと願いエトナ火山

(シチリア島にある活火山。3323m。火山としてはヨーロッパ最高峰)

の火口に身を投げて死んだとか


いった伝説があるそうです






エンペドクレスが

あらゆる物質は四元素からできていると考えたのに対し


アナクサゴラス(前500頃~前428)は

「4つでなく無数だ」と主張したそうです


彼は、この無数にある微小な構成要素を

「スペルマタ」(種子の意味)と呼んでいます



「世界やあらゆる物質は

多種多様なスペルマタによって出来ている


宇宙が生成された時、混沌としていた

スペルマタは「ヌース」(理性)によって


次第に整理されてゆき

現在の秩序ある世界として成立した」と唱えています



また、彼は「太陽は灼熱した石である」と説き

太陽神アポロンに対する不敬罪に問われますが


友人のペリクレス(アテナイの最盛期を築き上げた政治家)

の弁明により

罰金刑で済んだといいます






そして、デモクリトス(前460頃~前370頃)が

師の レウキッポス(生没年不詳)

の思想を継承する形で「原子論」を唱えます



デモクリトスは、物質を構成する最小単位で

決して変化せず、消滅しない存在として

「原子」(アトム)という粒子を考えました



形や大きさが違う

これら無数のアトムはたえず運動していて

その結合や分離の仕方によって

感覚でとらえられる全てのモノやコトが生じている

と考えたとされます




アナクサゴラスと

あんまり変わらないようですが


デモクリトスの場合、アトムが運動する場所として

「空虚」(ケノン・空間)の実在を唱えたそうです




それから「全てはアトムにより構成されているから

死とは、構成されている原子が

バラバラになるだけのことで、死後はない」とか


「アトムの運動は一定の法則に従っていて

全ては必然で起きている


だから人間に自由意志はない」といった

≪唯物的また機械論的世界観≫を述べてたとされます





このデモクリトス(前460頃~前370頃)の

「原子論」(アトム)から


ライプニッツ(1646~1716)の

「モナド論」まで、2000年もの間があります


なお、モナドとは原子(アトム)のような物質的なものではなく

精神の統一体としての最小単位です



さらに、近代科学における物質の最小単位としての

「原子」は19世紀前半に提唱され

20世紀前半にその理論が確立されています







ピタゴラス教団



古代ギリシアの哲学者であり、数学者でもあった

ピタゴラス(前570頃~?)は

ピタゴラス教団という宗教団体の教祖でもありました



彼は30年間、密儀〔仏教でいう密教のようなもの〕

を学ぶため


エジプト、ペルシア(イラン)

中央アジア、ガリア(フランスとベルギー他)

インドを巡ったと伝えられます



そして60歳前後のとき南イタリアのクロトンで

密儀の学校 ピタゴラス教団を創始したといいます



学校は盛況となり強力な集団となったそうですが

徹底した秘密主義とエリート意識から

市民の反感を買い


ピタゴラスは90歳の頃

(没年を前496頃とする資料もあり

すると74歳頃の没になる)


クロトンからメタポンツムに追放され

そこで没したそうです


また彼の死後、教団は散り散りとなり

秘密結社化していったとされます




ピタゴラス教団では、肉体は牢獄であるとし

地上での生活は魂の死を意味すると説いたとされます


そして

魂を浄化し、神性を回復させることが人生の目的であるとし

これにより輪廻転生より解放されると説いたといいます


信徒は財産共有の共同生活をし、外部に排他的であったそうで

また肉食を禁じ、自己の魂を見つめる修行をしたとされます



西洋では「輪廻」を説く宗教というのが

あまりないというだけで

どこにでもみられる教団のように思えます




ところがおもしろいのは


ピタゴラスは

音楽の和音から惑星の軌道にいたるまでの万象が

一定の法則に支配されていること


さらにその法則が数式により表せることに気づき


「万物の根源は数である」

「万物は数の関係によって秩序づけられる」と唱え


彼の教団では「数」を崇めたというのです



そして、知恵を得ることこそが解脱の最上の道であるとし

数学、音楽、天文学、医学の研究を行ったといいます



とくに魂を鎮める音楽と

永遠不変の真理を求める数学を重視したそうです




この教団のとりわけ数学の研究は評価が高く


有名なピタゴラスの定理(三平方の定理)は

ピタゴラス本人あるいは彼の弟子の発見とされています







この他、教団の業績には

科学史に残るものも少なくないとされますが


これらの発見は

あくまで「解脱」という最上の目的のための

二次的な目的であったということです




また、1+2+3+4の10を完全数、神聖な数として

これを象徴した1段目(一番下)に●●●●

2段目に●●●、3段目に●●、4段目に●

を並べた三角形を描いた曼荼羅を拝んだそうです
       




天文学では、太陽、月、地球、木星、火星

金星、水星、恒星球、対地球という

10個の天体が、宇宙の中心火のまわりを回っている


地球は自転しないので、半分だけに中心火があたり

あたらない半分に人間が生活している

このため中心火は見えない


光と熱は、ガラスでできた太陽が

宇宙の中心火を反射することでもたらされ

月が輝くのは太陽の光を受けるからである

と考えたといいます







ピタゴラスと無理数



ピタゴラスが

無理数の存在を発見した

弟子のヒッパソスを殺害したことは

有名です



ヒッパソスは、無理数の存在を発見

さらに、2の平方根が無理数であることも

発見したといいます




まず、数について述べます



「自然数」とは、正の整数 1、2、3… のことです


これに、0と、負の整数 -1、-2、-3…

を加えた総称が「整数」です


整数では0より小さい数が考えられるようになり

「今日は、昨日よりも気温がマイナス2℃だった」

という表現が可能になりました



しかし、整数だけだと

「1リットルの水を3人で分けたら

1人当たり何リットルもらえるの?」

といったようなときに困ったことになります


そこで登場した1/3とか

分数であらわさられる「有理数」です



以上の「数」に「無理数」が加わり

実在するすべての数である「実数」とされています




無理数とは、小数点以下が、無限に続く数のうち

分数であらわせない数です


無理数の例には、中学数学ででくる

円周率(円周が直径の何倍になっているかという比率)

があります


円周率を現す記号が、パイ(π)です

3.141592653589793238462643383279502884197169399375
1058209749445923078164 062862089986280348253421170679…




また、平方根とは2乗する前の数で

1の平方根は、1と-1

4の平方根は、2と-2

ですが


2の平方根は、1.414… 、また-1.414…

3の平方根は、1.732… 、また-1.732…

です



そこで、平方根を現す記号がルート(√)です


1の平方根は、ルート1と、マイナスルート1

2の平方根は、ルート2と、マイナスルート2

と書けます



このうち2や3の平方根など

ルートの外せない数が

無理数になります






ピタゴラス教団が「数」と考えていたのは

整数と、整数比(分数)だけで


ピタゴラスは、全ての数は

整数の比で表せると説いていました



そしてピタゴラスは

万物万象は、数の秩序によって成り立つ

全てが、数によって現すことができる

と考えたとされます




真実かどうかは知りませんが

ヒッパソスの発見は

≪万物は数である≫という教団の教えを

根底からくつがえすものであったため


ピタゴラスは初めそれを

異端の宗教のように取り扱い


ヒッパソスを殺害または追放し

無理数の発見を隠そうとしたとされます



ヒッパソスは船上で無理数を発見し

ピュタゴラスの弟子たちにより

海に投げこまれたなんていう話もあります





数学は、美的感覚が必須の学問だといいます


例えば、直角三角形で成り立つ

aの2乗+bの2乗=c(斜辺)の2乗

という三平方の定理(ピタゴラスの定理)


直角三角形の形なんて無限にあるのに

全ての直角三角形がこの定理で成り立つのです


感動的!!➝ 美しすぎる!! 

ということのようです




数学者は

一見複雑な世界の中に

洗練された構造があると信じていて

それを発見することが仕事だと

考えているところがあるといいます



なので、世界の原理を解き明かしていく感覚が

彼らにとっての嗅覚であり、美的感覚なわけです


無理数という汚い数の発見は

ピタゴラスの美的感覚からは

許せなかったのではないかと考えられているようです





ソクラテス




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