緋山酔恭「B級哲学仙境録」 ミトコンドリアイブ ① Y染色体アダム



B級哲学仙境論


ミトコンドリアイブ


 




ミトコンドリアイブ ①




私たちの細胞には、核、リボゾーム、ミトコンドリア

ゴルジ体などの細胞小器官が存在します


植物なら、さらに葉緑体という細胞小器官が存在します


このうちミトコンドリアと葉緑体は

核とは別に、DNA(遺伝子)を持っています


ミトコンドリア内のDNAは、ミトコンドリアDNAと呼ばれています



有性生殖つまり、精子(雄しべの花粉)と卵子(雌しべの卵細胞)が

受精卵をつくるとき


雌性配偶子(卵子や卵細胞)は細胞質を持ちますが

雄性配偶子(精子や花粉)は細胞質を持たないか少量しか持ちません


なので受精卵の細胞質は卵子に由来するわけです


〔 どういう仕組みか知りませんが

受精の際に精子の細胞質はほとんど失われるらしいのです 〕



ミトコンドリアなどの細胞小器官は、細胞質に存在するため

細胞小器官のDNAによって決定される子孫の形質は

つねに母親からのみ伝えられるわけです


これを「母性遺伝」と呼びます




例えば

植物の斑入り

〔緑色の葉の一部が白や黄色あるいは赤の模様になること〕

は、葉の一部が葉緑素を失ったもので

葉緑体遺伝子の突然変異で生じるそうです


この斑入りですが、葉緑体は花粉からは伝わらないので

全緑の雌と斑入りの雄を交配させると全緑の株が生まれ

斑入りの雌と全緑の雄からは斑入り株が生まれるといいます









母親のミトコンドリアの遺伝情報が

子孫に伝えられてゆくということですから


母系の遺伝系列をたどることができ


様々な人種のミトコンドリアDNAの塩基配列を解析し

比較することで、人類の起源や人種間の類縁関係がわかるそうです



それによると、約20万年前

アフリカに居住していた女性にたどり着き

この女性が、ミトコンドリア・イブと名付けられたのです


人類の母ということです




1987年、アメリカの分子生物学者

アラン・ウイルソン(1934~1991)を中心とする研究者たちは

世界各地の147人を無作為に選び


そのミトコンドリアDNAの変異の内容と割合に従い

系樹を作成したそうです 



すると、人類の系図は、アフリカ人のみからなる枝と

アフリカ人の一部とその他すべての人種からなる枝とに

分かれることが判明したといいます



これによって、人類はアフリカで生まれ

しばらくとどまった後、各地に広がっていったと解釈されたのです 



さらに

「全人類は、約15~30万年前に生きていた一人の女性にたどりつく」

ということまで分り


この女性に対してマスコミが名付けた名称が

「ミトコンドリア・イブ」です





人類の誕生については

「単一起源説」と「多地域起源説」があり


昔は、多地域起源説が主流で

人類はそれぞれの地域で進化してきたと

学校で教えたものでした



北京原人が中国人に

ネアンデルタール人がヨーロッパ人にというふうに・・・



しかし、今では

現生の人類(ホモ・サピエンス)はアフリカで出現し


アフリカを脱出したホモ・サピエンスが世界各地に散らばって

様々な人種に分化していったと考えられるようになっています


これを「アフリカ単一起源説」といいます



分子生物学の進展によって

アフリカ人は、ミトコンドリアDNAに多くの種類を持ち


欧米人やアジア人などは

そのうちの数種類に含まれることが判ったり


人類は14~20万年前に

共通の祖先を持つことが判明したというわけです





なお、ミトコンドリア・イブは

現在の全地球人の共通の母なわけですが

「人類がミトコンドリア・イブ」から始まったという意味ではありません



また、ミトコンドリア・イブは

あくまで、新人=ホモ・サピエンスの祖先ということです




ミトコンドリアは女性からしか伝わらないため

ある女性が産んだ子供が全て男子だったら

その女性のミトコンドリアDNAは絶えることになります


その女性が娘を産んでも、娘が生んだ孫に女性がいなければ

やはりその家系のミトコンドリアDNAは廃れます



つまり、ミトコンドリア・イブがいた時代にも

他にもたくさんの女性がいたということになりますが


ミトコンドリアDNAを現在まで残せたのは

ミトコンドリア・イブたった一人で

他の女性の子孫は絶えてしまっているという意味らしいのです




全人類がただ1人の女性の子孫だというのは

ロマンがあるけどホントなのでしょうか?



2001年には、現代ヨーロッパ人の90%は

イブの子孫の旧石器時代の7人の女性を共通先祖として持つ

(=ヨーロッパ人は7つのグループに分かれる)と結論する


オックスフォード大学の遺伝学教授 ブライアン・サイクスの

「イブの7人の娘たち」という本が出版されています



また日本人の95%は

イブの9人の娘たち(子孫)を祖先としているという話もあります


日本人が9人ものイブの娘を共通祖先として持つということは

多様性さを示すということらしいです




また、ミトコンドリアの遺伝子は

核の遺伝子よりも約10倍も進化速度が速いそうです


ヒトにもっとも近縁な動物はチンパンジーで

核のDNAでは、両者の間の塩基配列の違いは

わずか1%だといいますが


ミトコンドリアDNAの塩基配列をヒトとチンパンジーで比較すると

約9%ほど異なっているそうです






さて、ミトコンドリアDNAが

母から母へと伝わるのと同様

Y染色体(男性から男性へと遺伝してきます


そこで、父の父をたどることで

人類共通の父へと行き着くことができるのか?

これを考えてみます



例えば、世界に、男子が100人いたとします

男子が100人いるということは、100人の父がいるのでしょうか?


違いますよね


100人の中には兄弟もいます

なので、共通の父もいることになり、父の数は、75人(例えば)です


現在という世代の男子が100人

1つ前の(父の)世代の男子が300人いたとしても


このうち、75人だけが、子孫を残せたことになります


このように、さかのぼっていけば

仮想共通の父に、たどりつけることになります



ミトコンドリアイブへもこうしてたどりつくことは

理論的には可能と言えます







Y染色体アダム



前述のとおり

ヒトのY染色体は、男性から男性へと遺伝するので

Y染色体をたどることにより

男性の共通祖先へとたどり着くこともできます


こうして約19万年前のアフリカの男性にたどり着いたそうで

この概念上の人物が、"Y染色体アダム"です



但し、Y染色体はミトコンドリアのDNAとは違い

突然変異を起こしやすい染色体なので

末代まで同じY染色体を伝えるというのは難しいそうです


とはいえY染色体から理論的には

父親の祖先をたどることは可能のようです



Y染色体アダムが、約19万年前のアフリカの男性というのは

場所も年代もミトコンドリア・イブにほぼ一致していて


Y染色体アダムとミトコンドリア・イブとは夫婦だった可能性もあるとか


男性はたくさんの子孫を残せるが

女性は残せる子孫は限られるのだから


Y染色体アダムのたくさんの子供や孫の1人が

ミトコンドリア・イブだと考える方が妥当だ なんて話までなされています





ミトコンドリアイブ ②




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