緋山酔恭「B級哲学仙境録」 進化論 Ⅱ ラマルクの進化説・中立進化説・水中進化説



B級哲学仙境論


進 化 論


 




進化論 Ⅱ




ラマルクの進化説



ラマルク(1744~1829・フランスの博物学者)は

生物を、神経系の発達をもとに

低次のものから高次のものへと分類します


初めはこれらは固定的な存在であると

非進化的に考えていたそうですが


やがて「生物は発達する力を内在している」と考え

この力によって、無機物から単純な生物が発生し

徐々に複雑な生物へと進化したと考えるに至ったとされます



彼の理論は「用不用説」として知られています

(用とは使用、不用とは不使用の意味)


「使用する器官は発達し、使用しない器官は発達しない」

という説です



但し、この説自体は

同時代のE・ダーウィン(ダーウィンの祖父)も唱えていて

両者以前から存在していた観念であったようです




ラマルクの進化説は

【生物は発達する力を内在している】

というところに特徴ががあります



およそ以下のような話です


≪ 生物は発達する力、傾向性を持っている

この力は、動物においては欲求という形になって現れる


例えば、カタツムリは前方にある物体に触れる必要を感じ

角でそれに触れようと努力する


するとカタツムリの流動体

(行動を支えているエネルギーと電気性の物質)が

角へと送り込まれる


これにより角を伸張させ、角に神経が通じる ≫




きりんは、高い木の葉っぱを食べよう

食べようと努力した結果、首が長くなったというのが

ラマルクの進化説ということです



ラマルクは進化説を展開するにあたって

「獲得形質」の遺伝を認めています



獲得形質とは、遺伝的な先天性形質に対し

後天性形質ともいいます


トレーニングによって鍛え上げられた筋肉

本来、背の高い植物が、高山に芽生えたことにより生じた矮性など


一生の間で、環境の影響や、訓練によって得た形質をいいます




獲得形質が遺伝するかしないかの論争は

古代ギリシア時代より行われていたようで

獲得形質の遺伝について

ダーウィンも肯定的な立場をとりました



現在では遺伝情報に変化がないため、遺伝しないとされています


現在、進化説の主流となっている

「ネオ・ダーウィニズム」(新ダーウィン主義・総合進化説)とは


1870年代に、ドイツの生物学者 ワイスマンが

ダーウィンが認めた獲得形質の遺伝を完全に否定することで

ダーウィンの進化説を一部修正したものです





【 獲得形質についての近年の研究・・・・

線虫は、地中や水底の泥中

あるいは寄生虫として棲息していて1億種も存在するらしいです


そんな線虫の一種である

カエノラブディティス・エレガンスは、1,000個程度の細胞したないことから

発生分化や老化を研究するためのモデル生物とされているそうです


エレガンスは体長約1mm、無色透明で、3日で成虫になり

またヒトと同じ20,000個の遺伝子をもつそうです


そんなエレガンスが成虫になるまでの発生過程でストレス

〔重金属塩(亜ヒ酸塩)、高浸透圧(NaCl)、短期の絶食〕を与えると

ストレス耐性が向上し、寿命が延長することが分かっているそうです



この形質は、雌雄同体成虫を自家受精させて得た子供に伝わる

さらに子供同士を交配させた孫にも伝わる (ひ孫の世代には伝わらない)

といいます



オスのみにストレスを与えた場合にも

その子世代の線虫でストレス耐性の上昇や寿命が延びる

といった効果がみられるといいます


これは、獲得形質の遺伝を示す事例とした

注目を集めているようです 】








定向進化説



「定向(ていこう)進化説」とは

進化にはもともと決まった方向があり

その方向へと進むというものです



ラマルク以来、生物側に進化の原因を求める主張は

繰り返しなされ


そのような主張を「ネオ・ラマルキズム」と呼びますが

そのうちの代表的なものです



「擬態」の典型例としてよく知られる

コノハムシ、コノハチョウ


ラン科の花に似せた ハナカマキリなどは

まさに進化の芸術品と言えます



 転 写



   
              蘭の花に擬態した ハナカマキリ  転写             








そこで

「これらは多産 → 自然選択 → 適者生存 という

ダーウィンの進化説では説明できない


これらを説明するには、生物自身が

そのような方向性を持っていると考えざるを得ない」

と考える人たちが「定向進化説」を支持しています



また「鳥の飛行能力などは

複数の形質がそろわなければ不可能

そのような能力の獲得をダーウィンの進化説で説明するのはムリ」

と主張されます



さらに「中間型の機能を持った生物の化石が見つかるのは

生物自身がそのような方向性を何らかの形で持っているからである」

とも主張されます




マンモスの長い上に大きく曲がった牙や

オオツノシカ

(マンモスと並ぶ氷河期を代表する動物)の巨大な角などから


一度進化の方向が決まると、ブレーキが効かずに

その方向へ進化が続くと唱える人たちもいるようです







棲み分け進化説



べーゲル(1770~1831・ドイツの哲学者)や

ダーウィン(1809~1882)は

≪対立≫こそ発展で

対立から、発展と進歩があると信じ

「止揚」(アウフヘーベン)や「進化」を唱えたわけです





京大の今西錦司〔いまにしきんじ・

1902(明治35)~92(平成4)

京都の織屋の生まれ。生態学者。文化人類学者

京都大学と岡山大学で教授職。岐阜大学では学長。文化勲章受章〕

の「棲み分け理論」というのがあります



今西は、日本の霊長類研究の創始者であって

登山家、探検家としても有名です



戦前、サハリン、白頭山(中国東北部と朝鮮との境。2744m)

モンゴル、大興安嶺(中国内モンゴル自治区の大シンアンリン山脈)

などを探検し


戦後は、マナスル(ヒマラヤ山脈の8163mの高峰)

カラコルム(チベット高原とパミール高原の間にある山脈

7千メートル以上の高峰が多い。K2はエベレストに次ぐ8611m)

などを登山し


類人猿の調査隊を組織し、アフリカにゴリラ調査に行くなどしています



日本の山も1500以上登頂し、日本山岳会の会長もつとめています


また61歳のときには、キリマンジャロ(アフリカ最高峰。5895m)

に登っています


超人ですよ(笑)





「棲み分け理論」は世界的にも知られた進化説です



例としては、イワナとヤマメの話がよくなされます


イワナとヤマメは、ともに渓流の魚で、上流域に棲息しています


【 イワナの方がやや冷水を好むので

ある水温を境に、イワナが最上流域

ヤマメが上流域と「棲み分け」をしている


しかし、一方しかいない川では、両種ともに上流域に広く分布している



また、イワナとヤマメが共存する場合もあるが

イワナが下層で底生動物を餌とし


ヤマメは上層で落下または流下する動物を餌としている


しかし、水温による棲み分けができている場合

両種とも全層で、底生、落下、流下の動物を餌としている 】



このような事実から

ダーウィンの「適者生存」「自然淘汰」に対して


今西は、棲み分けにより

それぞれがそれぞれの自然環境に適したように

進化していくのである という進化説を提唱したのです



この進化説に対しは

「競争を排除したものだ」という批判があるそうですが


今西の説は、競争が避けられる場合は

「棲み分け」が成立するということのようです





なお、棲み分けの目的は

およそ餌の分配にあるでしょう


食べ物を獲得できることが「生存」そのものと言えるからです



棲み分け進化説に対しては

≪ワシ・タカと、夜行性のフクロウとでは

共通の餌を昼と夜で食べ分けることによって

餌の分配をしているように見えるが


タカが昼のあいだに小鳥を取り尽くしてしまえば

フクロウは食べるものがなくなるので

分配にはなっていない≫ともいう反論もあります



つまり

【 イワナとヤマメのような「空間による棲み分け」


あるいは、シマウマが草の穂先だけを食べ

ヌーは茎・葉を食べるといった「食い分け」は

資源(餌)を区分けすることになるが


ワシ・タカとフクロウのような

「時間的な棲み分け」では資源の区分けがなされない


だから、両者が棲み分けをして進化してきたとするなら

餌の分配以外の別の理由を考えなければならない 】

といった主張です








断続平衡説と跳躍進化説



ダーウィンの説は「進化は均一な速度で次第に進む」

「進化は徐々に起きた変化が蓄積した結果である」

と考える「漸進(ぜんしん)説」です



しかし、中間の段階の化石が

ほとんど見つかってこなかったこと=ミッシングリンク から

「断続平衡説」をといったものが現れます



この説は、アメリカの古生物学者

スティーヴン・ジェイ・グールド(1941~2002)らによって主張されたもので


「生物は、急激に変化する期間と

ほとんど変化しない期間(平衡)期間を持って進化する」


「種は、種分化の初期の段階で急激に変化する

ある程度の形が整うと

その後何百万年はほとんど変化しない平衡状態となる」

というものです



但しこの説でも、基本は「漸進説」です







これに対し「跳躍進化説」というのがあります


この説を最初に唱えたのは


オランダの植物学者、進化学者の

ユーゴー・ド・フリーズ〔1848~1935・アムステルダム大学の教授

メンデルによるエンドウマメの実験結果を知らずに

オオマツヨイグサの栽培実験によって、メンデルの法則を再発見〕です



≪劇的な突然変異が進化の主な原動力で

ダーウィンの自然選択説は補助的な役割しか果たさない≫とする説です




この説では

「一世代で種分化が起きれば、その生物は誰と繁殖するのか

たとえ子供が残せたとしても、その子は繁殖能力を持てないだろ」

という疑問が生じますよね



例えば、雄のロバと雌の馬の雑種のラバは

気性はおとなしく、体が丈夫で力があり

粗食にも強いので、労働用の家畜として使われてきました


しかし、ラバには繁殖力がありません

一代限りなのです


これは馬とロバの染色体の数が違うからだといいます


現在は生命倫理の観点からなされませんが

かつてはヒョウとライオンを子どものときから一緒に育て

交尾をさせてレオポンという雑種をつくることが

動物園で行われていました


このレオポンも生殖能力はありません



また、実際に、首が2つある亀だとか

6本足の羊が生まれるなど

といったことがありますが、そういった存在は、逆に環境に不利です


「≪跳躍≫が生物の進化にとって必要なら

化石にも≪有望でない怪物≫が多く発見されるはずである

だがそのような証拠はない」といった批判もなされます







ハンディキャップ理論
とランナウェイ説




イスラエルの進化生物学者 アモツ・ザハヴィ(1928~2017)が

1975年に唱えた「ハンディキャップ理論」というのがあります


これは一見、非適応的(生存のに不利)に見える

形態や行動の進化を説明する理論です


生物の形質や行動は、ほぼ全てが適応的であると仮定して

理論を構築する立場を適応主義といいますが

その典型です



ガゼルは、なぜ捕食者である

ライオンやチーターに見つかりやすくなる

「ストッティング」(跳びはね行動)をするのか?


理解に苦しんだ動物学者たちは

「他のガゼルにチーターの存在を知らせているのかもしれない」

と考えたといいます



これに対して「ハンディキャップ理論」では

ガゼルは「他の仲間より自分は健康で、良い個体であることを示し

捕食者が自分を追うことを避けるようにするために行なっている」

というように主張します


実際に、チーターはストッティングを行わずに

すぐに逃げ出すガゼルを狙うことが観察されているらしいのです



この説は、ハンディキャップを積極的に示すことが

自己の生存や繁殖に有利になるという考えで


重要な点は、ハンディキャップ信号が

その個体の質を正直に表すシグナルになっていること


発信者と受信者がその信号のやりとりで

利益を受けられるということだそうです





ハンディキャップ理論は

「ランナウェイ説」に対する批判から生まれたといいます



「ランナウェイ説」とは 

≪ オスのある形質に対する、メスの好みが

ある程度以上の割合で集団に広まると

その形質を持っているオスしか選ばれなくなる


メスがどういう形質を好むかは

適応(生存のに有利)とは関係しないため

オスが獲得した形質は装飾的で実用的でない場合も多い


だからメスは、生存競争から見ると

必ずしも良質なオスを選んでいるわけではない ≫

といった考えです







血縁淘汰



そ働き蜂(雌の蜂)が

自分の子でない女王蜂の子を育てるなどといった

自己犠牲は


「自然淘汰」では説明がつかないことから

「血縁淘汰」なんていう考えも生まれています



働き蜂は、繁殖せずに女王蜂の繁殖を助けるため

自分の子孫を残さない


だから自分の形質は

自然選択によってすぐに集団から消えてしまう

これは自然淘汰では説明できません



そこでこの説では

「女王蜂の子と働き蜂では遺伝子を共有するから

働き蜂にとって、女王蜂の子を育てるのは

自分の子を育てるのと同じ価値がある」と説明します



「働きバチ自身が繁殖し50%自分の遺伝子を持つ子を作るより

75%の共通遺伝子を持つ妹(女王蜂)を助けることが

遺伝子のコピーを効率的に増やすことになる」

といった話です



この説に関しては、私から言わせると

そもそも、進化の原因=自己保存 というのが誤りであり

進化の原因=種の保存 です








中立進化説



この説は、生物進化を分子レベルでとらえたもので

木村資生〔もとお・1924(大正13)~94(平成6)

集団遺伝学者。国立遺伝学研究所教授

ダーウィンメダル受賞。文化勲章受章〕によって主張されました



中立進化説とは

突然変異と偶然が、進化の主な要因であるとする説です


自然選択ではなく

「偶然」が進化の要因であると話であり


この偶然性を「遺伝的浮動」といいます



要約すると


【 生存や生殖に有利不利な遺伝子は

自然選択によって進化していくが


突然変異の多くは

生存や生殖に有利でも不利でもない中立的な変異である


また、生存や生殖に有利不利な遺伝子だけが進化していくのではない


有利でも不利でもない遺伝子も

偶然性(遺伝的浮動)によって、進化していくのである


そして、遺伝子の多くは

自然選択ではなく、遺伝的浮動によって進化してきたのである 】


といったところです




偶然が進化の原因とはどういうこと?



例えば、コインを投げて裏か表かを当てるコイントスで

表が出る確率は、1/2(50%)です


コイントスは、「完全確率」なので

いつ投げても表の確率は50%です



ちなみに、福引のガラガラは、完全確率

(過去の抽選に影響されずに1回1回が独立した抽選)

ではありません


過去の抽選結果に後の抽選結果が影響されるので

完全確率ではないのです


ハズレの玉が99個で、当たりの玉が1個だった場合

1回目は当たりが出る確率は1/100ですが

2回目には1/99になります


抽選が終わるたびに

玉をガラガラに戻せば完全確率になりますが・・・


( 完全確率は、確率論と統計学では「独立同分布」という )




話を戻します


5回、表が続いたので

つぎは、裏がくる確率は高く、表が低いはずだ

という思考は間違えで

「ギャンブラーの誤謬(こびゅう)」と呼ばれています



例えば、表が5回続く確率は

1/2×1/2×1/2 ×1/2×1/2 = 1/6


表、表、表、表、ウラ になる確率も

1/2×1/2×1/2 ×1/2×1/2 = 1/6 ですが


表が5回続く確率である1/6と

5回目のコイン投げで、表の出る確率の1/2

を比べてしまうわけです




とはいえ

1回ずつの確率は1/2のは分かったけど


表、表、表、表、表 だと、総計的には1/2になっていないよね

という話になりますよね




数学には「大数の法則」というのがあります


この法則からいくと

コイントスを多く行えば行うほど

表(あるいはウラ)の総計が1/2に近づいていく

= 表の出る確率が、理論値の1/2に収束していく

ということになります



なので、東京じゅうの人だけがコイントスをした場合よりも

日本じゅうの人がコイントスをした場合のほうが

確率が1/2に近づくということになります



逆にいうと

回数が少ないほど = 集団が小さいほど

確率とは違った(表が続く)結果になりやすい = 偶然性が高い

ということになります




ちなみに、10回連続で裏が出ることは

1/1024の確率で起こりうるので


東京ドームの5万の観客が

コイントスを行ったとしたら

すべてが裏になる人は49人もいることになります


さらに、すべて表が出る人も同じだけいることになります



10回連続で裏や表が出た人は

神的な存在に導かれてのことではないか?

と思うかもしれませんが

確率上では、ふつうに起こりうることになります





話を戻します


進化もこれと一緒で、集団が小さいと

偶然=遺伝的浮動 が大きくなるというわけです



飢餓などの要因によって集団が小さくなったとき

ある遺伝子が集団に広まる現象が、遺伝的浮動です


その現象が極端な場合、ある個人の遺伝子が広まることもあり

これを創始者効果というらしいです





分子レベルでいうと

ヒトの細胞には23対(つい)46本の染色体があり


1対の2本の染色体には

同じ形質にかかわる遺伝子が同じ順序で並んでいます


2本の片方は父親から、もう片方は母親から由来するものです


ヒトのように2本の同質の染色体をもつ生物を2倍体といいます



また、染色体は2種類に分けることができます

常染色体(22対・44本)と、性染色体(1対・2本)です


男性は性染色体に

X染色体とY染色体をもち、女性はX染色体を2つ持ちます




相同染色体上の同じ遺伝子座に位置する

2つの遺伝子を、対立遺伝子といいます


対立遺伝子の割合は、自然選択によって変わってきます

生存に有利に遺伝子が残り、割合が増えていきます



しかし、2つの遺伝子を比べても

有利不利がはっきりしないものも多く


こうした対立遺伝子の割合は

「偶然」(遺伝的浮動)に変わっていくそうです




たとえばヒトの血液型(A,B,O,AB)の割合が

人種間や国家間で違いがあるのは

遺伝的浮動の結果と考えられいます



血液型には、生存にとって有利不利がないので

このような偶然性がおきたのは → 自然選択ではない

ということなのです




この中立説は、当初、自然淘汰万能論者から

激しい批判を受けたそうですが


分子生物学の進歩によって

予想以上に多くの中立的な突然変異が起きている

ことが判り


事実として広く認められるようになったといいます







要するに、ダーウィンの進化論というのは


【 生物進化には、目的も方向性もない

生物は、環境に適応するために進化してきたのではなく

突然変異によって

たまたま持って生まれた形質が環境に適応していたから、生き残った


進化の主体は、環境のほうである


進化は「目的」ではなく「結果」にすぎない 】

といった話なのですが


それをさらに推し進めて

進化の主体は、自然選択よりも

単なる偶然であることの方が多い

とするのが、中立進化と言えます




キリンは、首が短かかった祖先に、ランダムに変異型が生じる


わずかに高い枝の葉を食べることのできる固体は

その分、体力がつき、繁殖に有利であるし、病気にもかかりにくい


わずかに高い枝の葉が少なくなると

さらに高い枝の葉を食べることのできる変異型が有利となる


こうして、徐々にキリンの首が長くなっていった

というのがダーウィンの自然選択です



しかし、キリンの祖先と、現生のキリンとに

中間の化石がないことから


ある時期に発生した首の長い変異型の遺伝子が

少数のグループに伝わり

たまたま彼らが環境に適応していたために

子孫を増えしていった

という考えが主流になりつつあるようです




   


写真は転写


右は、キリンと近縁のオカピ

キリンの祖先もオカピのような首の短い動物だったとされる


キリン科の祖先は森の奥にすんでいたが

一部が草原(サバンナ)に進出してキリンとなり

オカピは森に残ったために首が伸びなかったという








人類水中進化説 ①



ミッシングリンクから登場した進化説の1つに

「人類水中進化説」というのがあります



ミッシングリンクのミッシングとは「欠けている」こと

リンクとは「物と物とのつなぎ」のことで


ミッシングとは

「化石が連続的に発見されていない」状況をいいます


また発見されていない中間形の化石のことも

「ミッシングリンク」(失われた環・鎖)と呼びます




人類は600~700万年前に

チンパンジーとの共通の祖先から分岐し


直立二足歩行するようなって、人間になったと考えられてますが


分岐の直後の化石証拠が乏しく

ミッシングリンクになっているといいます



ダーウィンは「人間の由来と性選択」(1871)で

「将来、必ずヒトとサルを結ぶミッシングリンクが発見されるに違いない」

と述べているそうです




実際に、猿人(アウストラロピテクス)

ジャワ原人や北京原人(ホモ・エレクトス)

ネアンデルタール人、クロマニヨン人などの化石人類が発見されています



【 1856年にドイツでネアンデルタール人の化石人骨が発見されて以降

1868年に南フランスでクロマニヨン人、1891年にインドネシアでジャワ原人

1920年代には中国で北京原人(完全な頭蓋骨の発見は1929年)

1924年には南アフリカでアウストラロピテクスの化石が発見されている 】




また、20世紀末の分子生物学の進歩により

人類は600~700万年前頃に

チンパンジーとの共通の祖先と分岐したことが証明されました



さら分岐の時期に近い時代の化石として

20世紀末~21世紀初頭にかけて


サヘラントロプス・チャデンシス

〔600~700万年前のアフリカ中部に生息していた猿人

最古の人類とも

現地語で「生命の希望」という意味のトゥーマイの愛称を持つ

サヘラントロプス属はこの1種のみが発見されている〕



オロリン・トゥゲネンシス〔ケニアに生息していた猿人

サヘラントロプスに次ぎに古い

アウストラロピテクス属よりも150万年も古いが

アウストラロピテクス属よりもホモ・サピエンスに近い

オロリン属はこの1種のみが発見されている〕



アルディピテクス属〔580~440万年前のエチオピアに生息していた猿人

アルディピテクス・ラミドゥスとアルディピテクス・カダッバの2種からなる〕


が発掘されたといいます





そもそも、なぜ、ミッシングリンクが起きるのでしょうか?


それは、1/100万から1/1000万個体しか化石にならず

そのうち人に発見されるのはごくわずかだからだそうです


しかも日本や中央アフリカのような酸性土壌だと

骨の分解が速くなるのでさらに残りにくいといいます


日本は酸性の強い火山灰土で、有機物は土壌中のバクテリアや

小動物などにより分解され、無機物に変わってしまうそうです



1/1000万個体しか残らないとすると

今生きている日本人(約1億2千800万人)のうち

13人しか化石にならないということになります



それから地殻変動により100万年分の化石が削られる

などといった事も珍しくなく


ゾウやウマのように各進化段階で多くの化石が発見され

進化の様子がはっきりしているものは稀で


ほとんどの種が、進化の過程のうちの一部分しか

発見されていないそうです




但し、ヒトの場合は、ヒト(ホモ・サピエンス)と

チンパンジーとの共通祖先をつなぐ

100体以上の中間的な化石が見つかっていて


動物全体からすると中間の化石が

大量に見つかっていることになるようです





いずれにせよ

こうしたミッシングリクに対して

登場したのが前述の「断続平衡説」だったり

「人類水中進化説」なのです



但し「人類水中進化説」(アクア説)には

化石的根拠がないので

科学的な仮説にもならないと批判する人も多いようです




この説を最初に唱えたのは

イギリスの海洋生物学者

アリスター・ハーディー(1896~1985)という人で


彼は、人間がなぜ、他の陸棲哺乳類と異なり

皮膚に脂肪を蓄積しているのかと疑問に思い

海棲哺乳類の脂肪層のようだと気付き

そこから人類水中進化説に至ったといいます



ただ、自説を立証する化石が発見されていないため

1960年まで正式な発表はさけていたそうです



彼の説が広く知られるようになったのは

1972年に、エレイン・モーガン(イギリスの放送作家)

という女性が自身の著書でとりあげ

その本がベストセラーになったからだといいます



その後、彼女は、ハーディーの説をもとに

自らの詳細な研究を加えて、水中進化説を発展させたようです




「水中進化説」とは簡単に言うと


カバやクジラのように水中で生活する哺乳類には毛がない

ゾウも進化の過程でいったん水中に入ったことが証明されている


人間も体毛が薄い

これは人類が進化の途中で水中にいたからだ というものです




ちなみに

ゾウの祖先はおよそ5千万年前に海に帰っていったされます


ゾウと同じ先祖から進化したのが

カイギュウ類(海牛目)のジュゴンやマナティです


ジュゴンやマナティにまで進化する前に陸地に戻ってきた

カイギュウ類がゾウというわけです




また、クジラやイルカの祖先(まだ小さな哺乳類)は

およそ7千万年前に、海に帰っていったといいます



さらに2500万年から3千万年前には

クマの先祖の一部や、イヌの祖先の一部が海に戻り

前者がオットセイ、アシカ、セイウチなどに

後者がアザラシへと進化したといいます





クジラ類(クジラやイルカ)は、カバ科と姉妹で

5300万~5000年前ほど前のパキケトゥス科を祖先とするとされます


パキケトゥスは、オオカミくらいの大きさでひづめと長い尾を持ち

イヌに近いように見えますが、口はずっと大きかったようです



 パキケトゥス  ウィキペディアより



 パキケトゥス骨格標本  ウィキペディアより


ちなみに、骨格標本の多くは

外国の博物館が所蔵している

実際の化石の標本の複製標本(レプリカ)です

学校の理科室にあった人体骨格模型と一緒です




化石はパキスタン北部およびインド西部から発見されて

学名は「パキスタンの鯨」を意味するといいます



当時、インド亜大陸はユーラシア大陸と陸続きではなく

パキケトゥス科の生息地域には

遠浅のテティス海(古地中海)が広がっていたそうです



この海で水に潜って餌を獲ることの多かったパキケトゥスは

クジラ特有の下あごで水中の超音波を受け取り

耳骨に伝える骨伝導の仕組みを持っていたことから

クジラの祖先と考えられているようです


パキンケトゥスの耳骨も現生のクジラ類と同じであったことから

姿はオオカミのようでも、クジラ目に分類されるそうです



パキケトゥスは、陸上や水辺で生活し

捕食するときにだけ水中に潜ったと考えられています





パキケトゥスより100万年ほど後には

全長がおよそ3mにも達するアンブロケトゥス

〔ワニのような生態を持ち、カワウソのような俊敏性を備えたという〕

に進化したとされ



 アンブロケトゥス  ウィキペディアより



 アンブロケトゥス骨格標本  ウィキペディアより





200万年から300万年後には、さらに水棲生活に適応したロドケタス

〔ワニのような口、クジラに似る尾の原型を持つ〕となり



 ロドケタス  転写


尾びれがあるとする説がある一方で、尾びれの無い復元図も多いようです




約4000万~3400万年前のバシロサウルス

〔ヘビの様に長い身体を持つ。体長は18メートルあったという

遠泳能力は無く浅い海に暮らしていた〕あたりから身体が流線型になり

クジラに似てきたそうです


バシロサウルス以前は

アシカのように陸上にも上がっていたと考えられています


 バシロサウルス  ウィキペディアより




 バシロサウルス骨格標本  ウィキペディアより







人類水中進化説 ②




人類水中進化説によると


≪ 900万年ほど前の地層からヒトの遠い祖先ではないか

と思われる類人猿の化石が発見され

350万年ほど前の地層から、直立し二足歩行をしていたことが

確実な類人猿の化石が発見されている


しかし両者の間をつなく化石が発見されていない

その間、人類は水中生活をしていた


アフリカ北部一帯が水に浸かった時期があった

ここである種の類人猿が人類へと進化を遂げた



ヒトの体毛が薄いことに関して

従来の「草原進化説」(サバンナ説)では


狩りなどをするときにおこる体温上昇を冷やすため」

というが

狩りをするライオンやヒョウといった捕食動物で

毛皮を脱ぎ捨てたものはいない


逃げる側のシカやシマウマも同じである



また、体毛は寒さに対する備えとしてばかりでなく

太陽光線から身を守る働きもする


ヒトの祖先が毛皮を脱ぎ捨てた理由は、海に入ったからである

水中では体毛は泳ぐスピードを遅くする



水中生活する小動物の中には

体毛を完全防水にするなどして利用しているものも多いが

大型動物では、水の生活が長くなると毛がなくなる



また、我々が、胚から胎児へと羊水の中で発達していく過程を

人類が海の中で

単純な生物からヒトへと進化する過程になぞらえるならば


その最後のあたりに現れる毳毛(ぜいもう)は

かつてヒトが類人猿のような体毛を持ち

水の中で暮らすうちにそれを捨て去ったものと見なせる ≫




●  毳毛

妊娠12~15週頃から胎児に生え始め

全身を覆うように生えるが通常、生まれる前に抜け落ちる

ときおり毛むくじゃらのあかちゃんが生まれるのは

毳毛の抜けるのが遅かっただけで、生まれた後に抜け落ちてしまう





また、頭髪だけ残ったのは

海面に顔だけを出すときに、頭部を太陽光から守るためだそうです



それから、海面に顔だけ出すとき

イルカやアザラシやペンギンなどと同じ姿勢をとったとされ

このときの姿勢が「二足歩行」の「前適正」となったとしています



さらに、直立二足歩行は

背骨と後ろ足がつねに180度に保たれていることが条件で

こういった二足歩行ができるのは、人類とペンギンぐらいで

ともに水の中で暮らしたからこそ、直立二足歩行を得たと主張されます




サバンナ説(草原進化説)では、ヒトは手にモノを持つために

直立したと言われてきましたが

今では道具を持つ以前から二足歩行をしていたことが分っています



そこで、現在は、人類の祖先が

森からサバンナへと生活の場を移すにあたり

直立二足歩行できたのは


ヒトの祖先が、枝にぶら下がることで背骨と後ろ足を垂直にする

「前適応」を進化の過程で獲得していたからだとか

いった説明されます




これに対して、アクア説では、ゾウアザラシが

哺乳類の中で最も柔らかい背骨を持ち

V字型に背を反らすことができること


アシカやイルカの曲芸がその背骨の柔らかさと

バランス感覚によって可能なことなどをあげ


ヒトは水中生活によって背骨の柔らかさとバランス感覚を

「前適応」として獲得した


そして、陸地に戻ってサバンナ(草原)で生活をはじめたとき

手を使うこと、遠くの敵を発見することに

有利な二足直立歩行を自然にとったと説明されます




その他にもいっぱいあって

いくつかをあげると、他の霊長類には見られない特徴として


皮下脂肪が多いのは

他の水棲哺乳類と同様、水中で温度を保つのに有利


女性の外性器が隠れているのは

体の表面積を減らして水中生活に適応した結果


鼻の穴が下を向いているのは水が入りにくいように適応したため


上唇と鼻との間にある溝(人中)を持つ霊長類は人間だけで

これは上唇を鼻の穴に密着させて呼気が漏れたり

水が侵入するのを防いだため


水中では嗅覚が役に立たないので衰えた


涙を流すシステムは海棲哺乳類・海棲鳥類だけのもので

海棲鳥類は塩分を排出するが

海棲哺乳類は感情が激したときにも涙を流す




それから


類人猿には全く見られない水かきの痕跡が手足に残っている


水中生活によって、他の水棲哺乳類と同様

背骨が頭から尻まで一直線になってたので

性交するとき、正常位の形をとるようになった


といった話までされています




さらに、≪ アフリカ北部一帯が水に浸かった時期があった

エチオピア北部では、ダナキル火山などが海に浮かぶ島として残され

ここである種の類人猿が人類へと進化を遂げた


ガラパゴス諸島のような環境によって急速な進化を遂げた


人類は、ダナキル島の火山から流れる溶岩流によって

火についての知識と経験を身につけ

火を獲得したとも考えられる ≫ なんて話もあります




また、類人猿ぐらいの遊泳能力で海に入るのは

サメやワニに捕食されるのでは?

という疑問に対しては


その危険はクジラやイルカの祖先にも共通するはずだ

と説明されます





こうしたアクア説に対しては

アフリカ北部の大部分が水没していたとなると

現在、ライオンとかキリンとかシマウマとかいった

多くの動物が存在することの説明がつかない


とくにキリンは体の構造上泳げない

といった疑問が出されています



なぜ人類は陸に戻ったのか?


戻りたくて戻ったわけではなく

海水が干上がってしまった といいます





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