緋山酔恭「B級哲学仙境録」 アイヌの信仰・イオマンテ



B級哲学仙境論


アイヌ信仰


 




アイヌの信仰




アイヌの意味は?


アイヌ語で人間を意味するそうです



そもそもアイヌ人とは?


東アジアの古種族で、歴史的には

北海道を中心に、樺太南部、千島列島

本州の東北部を生活圏にしていた人たちです


現在では、日本とロシアという2つの国に分断されて

生活する少数民族で、日本では北海道を中心に

また東京などの都市部でも生活しているといいます



その数3万人を超えるとも

北海道内には2万3千人がいるともいいますが

実際のところ正確な数はよく分かっていないようです


これはアイヌと名乗ることができない人がいるからだとされます


またこれらの人たちのほとんどが

日本人との混血によって人種的な特質が薄れているといいます




なお、アイヌは、他のモンゴロイドに比べて

彫りが深かったり、体毛が濃かったりといった身体的特徴から

コーカソイドに近いという説が広かった時期があったそうです


のちに、アイヌ=縄文人近似説が主流となったそうです



縄文人近似説とは?


縄文時代には

日本列島を含む東アジア一帯には

南方系の人々が住んでいた


およそ5千年前

シベリアの北方系の人々が

東アジアに拡大をはじめ

2300年前には、九州北部から日本列島に侵入してきた


彼らが弥生人である



本土の大部分は弥生人によって占められるようになり

わずかに北海道に残った縄文人がアイヌの人々になった


現代日本人は、平均として

およそ北方弥生系7~8割

南方縄文系2~3割の比率で混血している

というものです



縄文人(アイヌ含む)を南方系モンゴロイド

弥生人を北方系モンゴロイドとする仮説は

「二重構造モデル」といって


埴原和郎〔はにわらかずろう・1927~ 2004。東大名誉教授

国際日本文化研究センター名誉教授〕によって立てられ

ずっと定説化されきたそうです



しかし、近年の分子人類学の発展によって

否定されるようになっています


今では、縄文系も北方(ユーラシア大陸)から来たことが

有力視されているようです



〔 縄文時代… 1万2千年前~前3世紀。

  弥生時代… 前3世紀~3世紀 〕






北海道や東北を、蝦夷地(えぞち)と言うでしょ?


蝦夷とは、もともと大和朝廷によって異族視されていた

北方に住む土着民に対する呼称で

蝦夷地は、時代によりその地域は変化しているそうです


アイヌも、近世には、蝦夷(えぞ)と呼ばれたそうです

アイヌという言葉が一般化したのは明治以降だといいます



蝦夷は、古代には「えみし」と読み「毛人」とも書かれたらそうです

また「えみし」の転訛から「えびす」とも読まれたそうです

えぞと読むようになったのは平安中期以降だといいます



えみし、えぞの語源については様々な説がありますが

一説によると、アイヌ語の雅語(日常語に対して文章語をいう)の

「エンチュ」(人間の意)に由来するといいます


他には、本来の意味は「田舎(辺境)の勇者」である

という説などがあるようです





アイヌの信仰ってどのようなものなの?


まず、ユーカラという神話的叙事詩があります


ユーカラは吟唱するもので、「カムイ・ユーカラ」(神謡)と

「人間のユーカラ」(英雄叙事詩)の2つに大別されます



また

鳥獣、植物、火、風などの神々が

自らの身の上を語るカムイ・ユーカラ(神謡)


人間の祖先神が自らの功績を語るオイナ(聖伝)


人間の英雄(主にポンヤウンペという少年)の戦闘や

愛などの体験記であるユーカラ(英雄詞曲)


主人公が女性のマト・ユーカラ(婦女詞曲)


の4つに分けられるそうです




カムイ・ユーカラやオイナによれば

アイヌ神話の国造りの神は


コタン・コル・カムイ

〔コタンは村や里や集落。カムイは神や神霊の意〕で

この神は巨人神で鯨を串刺しにしてあぶったりします


妹神とともに、大海に陸地をつくり

山や川、人間、動物、植物などを創造し

天上界に帰ったとあるそうです



天上界は、神々の生活の場〔カムイ・モシリ〕で

ここの支配者は、カント・コル・カムイ

〔雷神カンナカムイと同一とする説もある〕で

この神の指示によって、地上世界が創造されたといいます



アイヌの世界観には

神々の世界(カムイ・モシリ)

人間の世界(アイヌ・モシリ)

死後に行く(ポクナ・モシリ)があり


死後に行く世界は、地上と同じ様相をしていると考えられていて

主神的な存在は見られないそうです



天上界から人間界〔アイヌ・モシリ〕に

生活の知恵や文化を授けた神は

アイヌラックル(人間的な神の意)という始祖神(アイヌ人の祖)で

オキクルミ、アエオイナカムイ、オイナカムイ

オキキリムイの別名を持ちます



この神は、脛(すね)の中に

稗(ひえ)の種を隠して、地上に降り


人間に穀物を授け、狩猟、漁労、耕作、薬草につていの知識

家や舟の作り方、彫り物、機織り、刺繍


神の祀り方や

祈りの詞(ことば)などの信仰の儀礼、争いごとの解決法など

生活の全てを教えたそうです


また地上の悪神を退治しています





日本語の「神」と

アイヌ語の「カムイ」〔神威や神居と当て字する〕は関係あるの?


共通の祖先語から生まれたという説もあるそうです


そのカムイ(神霊)が、動植物や自然現象、さらには人工物など

あらゆるものに宿っているというのがアイヌの世界観で


まさにアニミズムです



他はどのような神がいるの?


太陽(チュプカムイ)、雨乞い(ホイヌサバカムイ)

雷(カンナカムイ)、狩猟(ハシナウックカムイ)

幣柵(ヌサコルカムイ)


月、風、雪、山、川、湖、草木

鳥獣、魚、虫、火、舟、疱瘡などの神々が祀られるといいます



カムイ・ユーカラでは、これらの神々が

自分の来歴や体験などを語り


人間に対する位置づけや

祀られるゆえんなどを明らかにしているそうです



水の神(ワッカ・ワシ・カムイ)や

魚(チェプコルカムイ)を与えてくれる

川の神(ペトルンカムイ)はとくに重要で


また多くの祭儀では

火の神(アぺ・カムイ)がとくに尊ばれるといいます



火の神は人間の言葉を神の言葉に変えて

諸神に伝えてくれるため


どんなカムイに祈りを捧げる場合でも

原則としてアペ・カムイへの礼拝がともなうそうです





舟や家をつくる材料となる

シランパ・カムイ

〔樹木の神霊。樹木の集合である山をも意味した〕

には良いカムイと悪いカムイがいて


材料となる良い樹木には良いカムイが

ならない樹木には悪いカムイがいるとみなしたそうです


つまり、アイヌ信仰はアニミズム的であって

シランパ・カムイは、一神だけでないということです




家にも

家の守護霊(チセコロカムイ・家の東北角に存在)


囲炉裏の霊(アペ・フチ・カムイ。アペは火

フチは老婆の意味で、老婆の姿をした神)


夫婦の霊(エチリリクマッ・家に入って入口すぐ右の柱に存在)

などがいるそうです





また、陸、海、空のそれぞれに、最も重要な動物神がいます


陸ではキムン・カムイ(山にいる神)であるヒグマ

海ではレプン・カムイ(沖にいる神)であるシャチ

空ではコタン・コル・カムイ(集落を護る神)であるシマフクロウ


他には、鹿の霊(ユッコルカムイ)

狐の霊(キムンシラッキ)なども信仰されたようです




さらに、人間に幸をもたらすピリカ・カムイ(善きカムイ)と

人間に災をもたらすウェン・カムイ(悪しきカムイ)がいそうです


流行病や天災は、悪しきカムイによるとされます


疱瘡(天然痘)や流行病を司る神は、パヨカカムイまたは

パイカイカムイといい

この神の射た矢の音を聞いた者が疱瘡になるされたようです





イオマンテ(熊神送りの祭儀)とは?


イは「それ(神霊)を」、オマンテは「行かしめる」の意味で

飼育した子熊(ヒグマ)を殺し

その霊魂であるカムイを神々の世界(カムイ・モシリ)に

送り届ける祭儀だといいます




なお、親熊を狩りで殺した場合

その場で解体し、神々の世界に霊を送るそうです


こちらは、イオマンテに対して

カムイ・ポプニレ(カムイを発動させる意)というそうです



カムイ・ポプニレは、祭壇を設えてヒグマの頭部を祀るといいます


これは、殺された直後の

獣(熊以外の動物も含め)のカムイ(霊魂)は


両耳の間に留まっているので

これを神々の世界に送り返すからだといいます



但し、人間を傷つけたり殺したりした熊は

細かく刻んで大地にまいたり

ゴミと一緒に燃やしてしまい、ポプニレを行わないため

こうした熊の霊魂は神の世界に帰れないそうです




春先、まだ冬眠から目覚めない熊を狩ると

冬ごもりの間に生まれた子熊がいる場合がある


この子熊を集落に連れ帰って飼育する

はじめは、人間の子供と同じように家の中で育てるそうです


1、2年ほど育てた後に

集落をあげての盛大な祭儀(イオマンテ)を行うそうです



花矢(木を装飾的に削ってつくった矢)を射かけ

最後に本物の矢を心臓に打ち込み

さらに丸太の間に首を挟んで屠殺するそうです


遺骸は一定の様式に従い、頭だけを残して解体されるそうです


頭部はポプニレ同様、イナウ(木幣)や酒を供え、祈りを捧げて

霊魂を神々の世界に送り返すといいます


肉は人々にふるまわれるそうです



アイヌの人たちは、イオマンテを行うことにより

再び熊神が、自然の恵み(毛皮や肉)をもって

人間の世界に訪れてくれると考えるそうです



なお、熊神の他、主要な動物神

〔シマフクロウ・キツネ・タヌキ・カラスなど〕を送る場合も

イオマンテと呼ばれ

クジラやシャチを対象とするイオマンテもあるそうです



一部の地域では

シマフクロウ〔北海道には130羽しかいない

1971年に国の天然記念物。93年に希少野生動植物種に指定〕

のイオマンテが重視されたといいます




イオマンテは、生贄(いけにえ)を神に捧げて

守護を願うというものや

人間の罪を動物に着せてあながわせるといった

贖罪信仰とも違うことが分かります



アイヌの信仰では、自然物、人工物、人間に関わるものであれば

全てに神霊(カムイ)が存在すると信じられているわけです




神と霊との関係は、樹を切るときには

その霊を森の神に送り返すといった関係で


使わなくなった食器は

捨てずに特定の場所にもっていき

器や皿の霊を神の世界へ送り返す

と考えるといいます



葬式では、死者の霊とともに副葬品の霊が他界へ行くように

副葬品を壊したり破ったりするそうです





カムイは、カムイ・モシリという神々の世界からやってきます


このカムイ・モシリは、天上界にあると考える場合と

山の獣であれは山の奥、鳥であれば天界にあるといったように

その動物の生活の場から想定される場合とがあるようです



カムイ・シモリでは

カムイは、人間と同じ姿で

人間と同じように、料理をしたり、彫り物をしたり暮らしているが

人間には見ることができないといいます


カムイが人間界になにかの理由

(シマフクロウなら村を護るため)でやってくる場合


人間に見える衣装を身に付ける

火のカムイなら赤い衣装を、クマなら黒い衣装を身に付ける

これが人間には炎に見えたり、毛皮に見えたりするそうです



クマは、毛皮と肉という土産をもって、気に入った人間の家を訪れる

狩猟はこれを迎える行為だとされます


心が美しいと熊が好意をもって訪問してくる

猟運とはこれをいうそうです



なお、熊やキツネを先祖とする家も多いそうですが

これをトーテムの残存とするかどうかについては

考えが分かれているようです





偶像は作られたの?


アイヌの信仰は、神殿やら神の像やらは作りません


祭儀では、イナウとよばれる木幣(もくへい)が用られます

イナウは、祭壇の神々に捧げられるものです



例えばイオマンテでは、熊神の祭壇を中心に

森の神、水の神、狩猟の神、氏神、農業神、祖霊などの

祭壇が設けられるそうです


祭壇とは、イナウを立てる並べる柵だといいます





また、アイヌには神官のような人は存在せず

成人男性であれば

誰でもカムイへの儀礼ができなければならない

とされているそうです


一方、女性はふつう火の神以外には祈りを捧げられないそうで

参加できない祭儀も多いようです





●  イナウ


木幣(もくへい)。通常は、ヤナギを使用

ミズキや、キハダ(ミカン科)で作られたものは上等とされる

捧げる神によって種々の形がある


一例をあげると

直径が3センチほどのヤナギやミズキの枝を採集し

70センチほどの長さに切り、皮を剥ぎ、乾燥させる


乾燥したら、表面を削り

先端部あたりに、削りかけをふさふさと飾りたらす

また削りかけを撚(よ)ったものをたらす


イナウ作りはアイヌの男性の大切な仕事とされ

イオマンテなど重要な祭儀には、泊りがけで集い

イナウを作成したという



 転 写



 転 写



 転 写




アイヌ人は、食糧や生活に必要な素材のほとんどを

狩猟〔エゾシカ・ヒグマ・アザラシ・トド・オットセイなど〕

漁労(ぎょろう)〔サケ、マス、ニシン、シシャモなど〕

植物採集 により得ています



サケは、カムイ・チップ(神の魚)と呼ばれ

サケの回帰性を神が与えてくれたものとみなしたそうです


シシャモはアイヌ語のスサム(柳の葉の意)に由来します

神の国の柳の葉が人間の世界に落ちて魚になったとされます




しかし明治政府が成立し、多くの和人が移住してくると

森林は伐採され、原野は耕作地となり

狩猟や漁労の権利も奪われてしまったといいます


これにより彼らは、採集民としての生活が維持できなくなったそうです



明治政府は、アイヌの農民化とともに、皇国臣民化を図ります


以来、政策によって日本文化への同化を強いられ

固有の文化を失っていったそうです


とくにアイヌ語は、日常の会話で全く使われなくなったそうです




近年までアイヌに対する根強い差別や偏見がありましたが

現在では、物質的、精神的ともに

日本人と全く同じ生活を営んでいて


民族としてのアイヌはすでになく

せいぜいアイヌ系日本人となっているともいう学者の方もいます





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